九谷焼 福島武山 赤絵細描
福島武山氏は赤絵細描(あかえさいびょう)という赤絵の具で描く技法を再び九谷焼に呼び起こしました。赤絵の絵付職人が九谷地方で減少する中、先人の残した良い作品を師として長年赤絵の研究を続けてきました。福島氏は平成10年度に赤絵細描の作品で第23回全国伝統的工芸品コンクールの内閣総理大臣賞(グランプリ)や、その他多くの賞を受賞し、平成15年には石川県指定無形文化財に認定されました。
■赤絵細描
もともと赤絵とは江戸後期に流行した南画の技法を焼き物に絵付けするために考え出された技法で、赤の細密描法に金彩を施したものです。なかには色絵をさしたものも多く、文人好みの繊細で品に満ちた作品が数多く作らました。全盛期の明治から昭和初期には九谷に200人以上の赤絵職人がいました。そのころは九谷といえば赤絵というほどの隆盛をみせていましたが、今日では数人の絵付師が細々とこの伝統的技法を継承しています。
赤絵は「飯田屋」または「八郎手」とも呼ばれています。
■福島武山と九谷赤絵
九谷では赤絵が一時期九谷の代名詞となるほどの隆盛を見せた時期もあり、優れた作品が多く存在しました。福島氏は赤絵一筋で師をもたず、先人の優れた作品を研究し赤絵細描の技法を習得しました。福島氏は赤絵として古くから描かれてきた唐人や竹林の七賢人といった画題のほか、赤単一色で立体的に表現する独自のデザインの開発にも取り組んでいます。
■赤絵の立体感と視覚効果
赤絵は主に赤絵の具1色で描く九谷でも1時期主流だった作風です。補色的に金や色絵の具を使い輪郭を強調したり、アクセントを持たせたりします。
赤絵は1色での描写ゆえ遠近感が表現しにくいという難点があります。福島氏はこの磁器の表面という2次元的なスペースを視覚効果を利用して立体感を表現することに成功しました。
赤絵はシンプルな赤1色での描写だけに立体感が表現しにくけれど、福島氏はそのデザインの視覚効果を利用して赤1色で作品に立体感をもたせることに成功しました。 また福島氏は平成10年度にこの作品で第23回全国伝統的工芸品コンクールの内閣総理大臣賞(グランプリ)を受賞しました。 |
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■赤絵の具と筆
赤絵にとって赤絵の具は不可欠な要素であり、この赤の発色をよくすることが非常に重要になってきます。またその絵の具を描き付ける筆にもスムーズな絵付けができるような工夫がみられます。
福島氏の赤は発色をよくするために、いろいろな工夫がなされています。もともと赤絵で使われていた赤は九谷和絵の具でも唯一透明感のない絵の具で、他の絵の具と異なりボリューム感の少ない絵の具です。それゆえ赤はそのまま使うと、沈んだ感じの色になりやすい特性があります。そのため、赤絵の具の調合、酸化作用や窯温度といった点に注意することで赤の発色をよくしています。
また細描に用いる筆にも細かい作業で使いやすく、思い通りの表現ができるように自分に合った筆づくりをおこなっています。福島氏は細描を行う筆を細書き用の筆よりさらに細くし、細い線がきれいにでるように作ります。また絵の具が滑らかに磁器に滑り降りるよう筆の根元から筆先までこだわります。先は細く根元は絵の具をたっぷり含むように太めに作って、絵にむらが出ないような工夫がされています。
福島氏の作品には道具へのこだわりは当然のこと、絵の具や筆を使う絵付師自身の経験とその技がもっとも反映されているのではないでしょか。
■題材
九谷の赤絵には古くから唐時代のテーマが多く描かれてきました。福島氏の赤絵には伝統的な飯田屋風のテーマである唐子や竹林の七賢人、龍や鳳凰の文様のほかに、独自の立体的な空間を表現する幾何学文様の網手や、ピエロを装う小人文、花の上の妖精、日本独特のまつり文などがあります。
主な画題と組み合わせて周りのスペースをうめるのに使われる模様も、伝統的な赤絵の模様が多く用いられ、福島氏特有の題材と見事にかみ合い現代的な赤絵をよみがえらせることとなったのでしょう。
→福島武山 九谷赤絵の画題
■赤絵の作業工程
赤絵細描では磁器の表面にまずにかわの液を塗り、表面の誇りや油分を取り除き、絵の具ののりをよくします。
次に呉須で線描き(骨描き)をして、主な画題やまわりの模様の大体の配置を整えます。
描く画題や模様が決まり、大まかなレイアウトができたら、いよいよ赤絵の具を塗っていきます。線の太さや模様により筆の種類や絵の具の濃さを使い分けます。この赤の上絵の部分がもっとも長く手間のかかる部分なのです。
赤描きをすべて終えると、まずサンドペーパーで軽くなでるようにざらざらした部分をとり、いったん窯へ入れます。表面を凹凸をなくすことで、この後の金描きのときに筆のすべりをよくします。
窯からだし、今度は金絵の具で描き足します。金を使うことで、絵に品格を与え、絢爛豪華な仕上がりになります。
金描きのあとは金窯といい上絵窯より低い温度で金を焼き付けます。
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